「はてなインターネット文学賞」記憶に残っている、あの日
なんだ!この高級感。
私、どこかの令嬢だったっけ?
スマートな紳士たちにエスコートされ、席についた。
20代の太陽照りつける、ある夏の日の出来事。
地上の景色はビュンビュン走る車にビル、ビル、ビル。
開場されるまで列に並んで待っていた。
するとスマートな紳士が、
「ただいまより開場いたしますので、指示に従ってご入場くださ~い」
と、いい声でアナウンスがあった。
ずいぶん前のことだから定かでないが、このようなニュアンスの案内だったと思う。
そこから地下に降りると、ここは何?
映画のワンシーンにも出てきそうな世界。
田舎から出てきた私は、どこでもドアから入ったような気分になった。
ブラック、ブルー、ホワイトの空間、スタッフの体も3色に包まれている。
ステージには、ドラム、キーボード、エレキベース、ギター数本だったかな?楽器がセッティングされ、照明でキラキラしていた。
はじめてブルーノート大阪に行った日のこと。
ジャズ界では有名なリーリトナーのライブ。
中学、高校、大学、社会人、メンバーは違ってもずっと趣味でバンドをしていた。
社会人になってから、ジャズやフュージョンと呼ばれるジャンルに一層興味を持ち、また年上のメンバーからの影響もあって、彼の演奏を聴いていた。
初ブルーノート、初リーリトナー経験。
その頃でも、チケットは1万円前後していたんじゃなかったかなぁ?
電車賃に食事代も含めると高額だったけれど、憧れの場所で腕のいいミュージシャンたちの演奏を至近距離で最高の音でバンドメンバーたちと堪能できるのは、今しかない!と行ったのだった。
席について、演奏が始まる前に食事をオーダーし食べるのだが、興奮して食事の味は全く記憶なし。
カクテルを注文したけれど、ほとんど飲まなかったのではないだろうか。
ワクワク、ドキドキ、ソワソワそんな気分だったのだろう。
いよいよ演奏。
リーリトナーをはじめとするメンバーたちがスッ~と現れ、用意をし、おそらく英語で軽く挨拶して、音が始まったのだと思う。
演奏はもちろん素晴らしい。
でもなんだか雰囲気にのまれてしまい、体がじっ―としたまま。
目は点になり、1曲終わるまでわけがわからなかったのではないかと。
曲が進むうちに、だんだんと体が音楽にゆだねられるようになっていった。
MCは英語がほとんどで、英語が苦手だった私には周りの人が笑っていても???
このライブで強烈に記憶にのこっていることがある。
演奏は前半と後半にわかれていて、その合間の時間にお手洗いやオーダーの追加などする。15分~20分くらいだっただろうか。
その時間にリーリトナーやメンバーたちが客席に現れたのだ。
ビックリした私は、急いでメモとペンを持って、勇気をふりしぼって近づいていった。
握手してサインしてもらって・・・。
何をどう話しかけたのか、覚えていない。
でも伝わった。
ベースのミュージシャンは、握手した手が私の倍ほど大きな手だった。
お互いサンキュー!と言ったのは覚えている。
私の心はドキドキこえてバクバク。
心拍数90ぐらいはあったのでは。
こんなこと、私の中ではあり得ないという経験だった。
興奮さめぬ間に後半の演奏がはじまった。
外人さんにしか出せないようなグルーヴというのかノリというのか、そういうものもなんとなく感じられるようになっていたと思う。
終わればあっという間の1時間半。
もうちょっと聴きたい、ホールでのコンサートより短いのがブルーノートでの演奏。
満腹にはさせない、これも高級感なんだろうかと、今は思う。
現在、ブルーノートは東京だけになってしまったが、私にとってブルーノートは今でも憧れの音楽空間。
この日のことは、おそらく一生忘れないだろうね。
演奏曲目は覚えていないのに・・・。